ストイチェヴァ・ロゼィッツァ & 堀美夏子 ピアノ・デュオ ブルガリア演奏記 

堀美夏子です。
私は、大学で英国に渡り、ロンドンにある王立音楽大学パフォーマンス・コースを卒業後、同大学修士号、ロイヤル・ホロウェイ(ロンドン大学)音楽学修士号、ノードフ・ロビンズ(ロンドン大学)音楽療法修士号を取得し、2007年9月、日本に帰国しました。

王立音楽大学在学中、同じピアノ門下生であったブルガリア人のピアニスト、ストイチェヴァ・ロゼィッツァと1996年より英国を中心にピアノ・デュオの演奏活動を行ってきました。

今年の夏、 私達のピアノ・デュオがブルガリアのスゾポル市で開かれているアポロニア芸術祭に招待され、念願のブルガリアに初めて行って来ました。今回、こうして私達のブルガリア・ツアーを演奏記として書かせて頂けた事、とても感謝しています。

8月30日(土):
日本からイギリス経由でブルガリアに到着した私は、まずロゼィッツァの住むブルガリアの首都ソフィアに滞在し、3日後に迫るソフィア音楽大学、チェンバー・ホールでの公演に向けてリハーサルを開始しました。ロゼィッツァのお母様の家庭料理に、すっかり時差の事も忘れて毎日“練習と美味しいご飯”で充実していました。

9月2日(火):
ソフィア音楽大学の公演には、ロゼィッツァの家族や友人を含め230人以上の方々が私達の演奏を聴きに来て下さりました。作曲家でありソフィア音楽大学の教授もされているアタナソフさんもいらして下さいました。今回のプログラムで私達は、アタナソフさんの連弾曲(ブルガリアン・ダンス)を弾いたのですが、アタナソフさんご本人に生演奏を聴いて頂けて、とても感動しました。

後から聴いたのですが、アタナソフさんご自身もピアニストである奥様とご結婚される前にピアノ・デュオをなさっていたのだそうです。色々な話をして下さったアタナソフさんは、今後の発展を願ってというメッセージと共に自作の2台ピアノの楽譜を私達に下さいました。私もロゼィッツァも近い将来、是非、演奏したいと思っています!
9月4日(木):
ソフィアでの演奏会を終えた数日後、アポロニア芸術祭に向けてソゾポル市に出発。ソゾポル市まで、ソフィアから電車で約6時間近くかかるのですが、アポロニア芸術祭の参加者は 皆同じ車両に乗っていて、映画関係や音楽家など、お互いの活動の話やこれから行くアポロニアの話題で盛り上がりました。皆さん、本当に気さく話しやすく、私達のコンサートも聴きに来て下さったんですよ。とても嬉しかったです。

ソゾポルの街は黒海に面した落ち着いたリゾート地といった感じでした。アポロニア芸術祭が主催するジャズ、劇場、映画、音楽などの催しは全て旧市街で行われていて、街中はジャズ公演のリハーサルの音と日焼けした観光客やジャーナリストなどで活気に溢れていました。ポスターに載っていた私の名前の横には(日本人)とかの書き込みは無く、ただ(日本)とだけ書いてあり、ロゼィッツァは日本代表みたいな書き方だね、と笑っていました。
そういえば、ソゾポルの旧市街の坂を登って、ちょうど二股になる所にあるパン屋さん、人気があっていつも列が出来るのですが、美味しかったです!勿論バニッツァも美味しいですが、私はほんのり甘めの丸いドーナッツ型のパンで白ごまがかかっているモノが妙に気に入ってしまいました!

9月5日(金):
アーキオロジカル・ミュージアムでいよいよ本番の日。私達の公演はTVブルガリアのケーブル・チャンネルで放送されるので、午前中のリハーサルでは、テレビ局のスタッフと照明やカメラの設定を交えての打ち合わせ、午後にはアポロニア特集を中継している2本のラジオ局のインタヴューもありました。ブルガリア語と英語の両方で、興味深い色々な質問を受けました。

本番、会場には沢山のお客様がいらして下さり、ロシアやイギリスからのお客様もいらっしゃいました。又、ソゾポルまで電車に一緒に乗って来た音楽家の方々からも、暖かいご支援のお言葉を受ける事が出来ました。こうして無事終える事が出来た公演でしたが、数時間後、自分達の演奏録画をテレビで初めて観た私達は緊張と興奮でなかなか寝付けず、二人で散歩に出掛けソゾポルの旧市街から見渡せる黒海岸の夜景を楽しみました 。

9月6日(土):
今日はオフ日なのですが、ロンドン在住のブルガリア人の友人の結婚式が偶然にもヴァルナ市であり、ロゼィッツァと一緒に出席しました。初めて足を踏み入れるアルメニアン教会の中は暖かい雰囲気で、中でも金色と青空の様な水色の色彩がとても印象に残りました。披露宴では幸せそうな新郎・新婦そして二人のご家族、親戚の方々と一緒に、アルメニアやイランなどの音楽にあわせて踊ったりもしてしまいました!

9月10日(水):
海のリゾート地から、一旦ソフィアに戻った私達はスモーリャン地方に移動しました。まずソフィアから電車で約3時間、ブルガリア第ニの都市プロヴディフで降り、そこから更に車で1時間半ほどロドビ山脈を登っていった奥にあるスモーリャンの町に着きました。途中、車の中から見えた景色は素晴しく、中でも澄んだ川や何も無い山脈の頂上近くに点々と見られる僧院や日が暮れていく山の景色など、ブルガリアの大自然の豊かさに感動しました。

9月11日(木):
今日は、スモーリャンのプラネタリウムの施設会場で公演。こちらでも、5人のジャーナリストの方々がインタヴューをしに来て下さいました。リハーサルの合間にはプラネタリウムも見せて頂きました!

普段から、スモーリャンの町では、クラシックコンサートはあまり頻繁に行われていないと聴いていたのですが、夕方になると、会場は殆ど埋まるほどの沢山の方々が聴きに来て下さいました。私達の事をラジオで聴いて駆けつけてくれたプロヴディフの音大生や、ピアノ・デュオの演奏は初めて聴いたという方もいらしたのですが、皆さん総立ちになって拍手して下さった時、ああ、楽しんで頂けたのかな、という気持ちでとても嬉しくなりました。又、いつかスモーリャンに来られる機会があれば、その時は、この町から見られる夜空一杯の星を是非眺めてみたいと思います。

9月13日(土):
今回のブルガリア演奏記、私達の最後の演奏会がプロヴディフの旧市街にある音楽大学のチェンバー・ホールでありました。街を南北を仕切るマリッツァ川と6つの丘の存在が特徴的なこのプロヴディフは、中心部が歩行者天国にもなっており、とても和やかな雰囲気のある都市で、個人的にとても気に入ってしまいました。又、プロヴディフはロゼィッツァの幼児時代を過ごした場所でもあり、演奏会にはロゼィッツァの親戚を始め、彼女の最初のピアノの先生もいらして下さいました。今回、このブルガリアでの演奏ツアーに向けて、私もロゼィッツァも何を弾こうか色々悩みました。ブルガリア人と日本人という特色を生かし且つ聴いて頂くお客様に楽しんで頂けるプログラムを、という思いでブルガリア人の作曲家(アタナソフ/ヨシフォフ)と日本人の作曲家(溝上)の曲に加えて、ストーリー性と色彩の濃い且つバラエティーに富んだ曲目としてボロディンの歌劇‘イーゴリー公’とラヴェルの曲を選びました。ロゼィッツァの家族、親戚、友人をはじめ本当に行く場所毎に、主催者の方々や聴きに来て下さった方々から暖かいご支援のお言葉を頂きました。本当に貴重な経験が出来たと思います。ブルガリアで毎日のように食べたショプスカ・サラダや本場のヨーグルトはさておき、こうして無事に初ブルガリア・ピアノ・デュオ演奏ツアーを成し遂げられたのは、ブルガリアで出会った方々の暖かい笑顔だったのだな、と実感しています。

9月17日(水):
日本帰国